かくりよ書房夜明け分館

服飾、文芸ほか雑記

変体仮名リベンジ~ありがとう崩し字学習支援アプリ~

 学生時代の専攻は国文学(いわゆる古典)だったんですが、通っていた大学には特色がありました。およその学科では第一外国語、第二外国語が必修で、大抵は第一外国語で英語、第二外国語で独伊中韓露西からどれかを選んで勉強されていたかと思います。私がいた学科では第一外国語は原則英語、第二外国語の代わりとして「変体仮名」、古文書に書かれているいわゆる「崩し字」を勉強するようになっていました。

 例。現在では「け」と読むひらがなはひとつだけですが、古文書では「計」「希」「介」「遣」「気」などのさまざまな漢字が崩された状態(これが「変体仮名」「崩し字」というやつです)で「け」一音に当てられており、『字母』と呼ばれるこれらの「崩される前の漢字」を覚えないと古文書に書かれている文字を読むのは難しくなります。ちなみに現在の「け」は「計」を崩した形が元。

 私はこの崩し字読解が学生時代壊滅的にできませんでした。

   教授に「じゃ、これ覚えといてね!」と渡された小冊子といくらにらめっこをしても今一般的に使われているひらがなに近い形のものしか拾えない。字母とひらがなが頭の中でうまくつながらず、形を崩されてしまうと字母と関連付けができない。原典購読の資料を予習しようとしても最初の一行が読めなくて微動だにできない。周囲の子にどうやってるのか聞くという選択肢はなぜか頭の中になく(人に頼ることが未だにめちゃめちゃ苦手です、聞いて馬鹿だと思われたくなかったのもある、本当にろくでもないプライドの持ち方をしていたな私……)、前後期の単位は無遅刻無欠席によるギリギリCでお慈悲の通過。あまりにも変体仮名が読めなかったのもあり、卒研は崩し字をほぼほぼ使わなくても大丈夫な時代をテーマにしていました。

 

 あの地獄を抜け出してそろそろ4年ほど経つところで、あんなに仲良くなれなかった崩し字にリベンジマッチを申し込んでいます。


 国語の先生を再度目指す中でダラダラと日本史日本文学史の勉強をやり直しているのですが、なんだか楽しくなってきてしまい、NHKの歴史番組を録画してみたり、近場で歴史関連の展覧会があれば覗きに行ってみたりするようになりました。友人が刀剣好きで、展示に誘ってもらうことが多いのもある。
 そういうところには大体関連資料として巻物がバーーーーっと並べて置いてあります。みんな読めなくてスルーしていくからどんなに混んでる展覧会でも割とすいているあの一角。あれが読めたら推しについての何かしらを拾ってテンションが爆上げできるかもしれない、という邪な欲が重い腰を蹴り上げてくれました。

 あと、学部生の時みたいな変な「焦り」や「絶望」がなくなったものある。もう周りを見て比べる必要もなくなったからか、「できない」を普通に受け入れて勉強しなおせるようになりました。天邪鬼もいいところだとは思うのですけれど。

 

 で、使っているのがこちら。

play.google.com

 崩し字の勉強をもっと一般的に!! と大阪大学文学部の研究者の方が開発に携わっているアプリです。墨字をもぐもぐしてダメにしてしまう紙魚がイメージキャラクターなのでちょっと笑ってしまう。天敵ではないか。


 アプリは大量の崩し字の写真とひらがなを関連付けて覚えられるパートと、本当に覚えたかどうかを確認できるテストパートに分かれています。

 字母一覧をどれだけガン見しても覚えられないのは学部生の時の経験で重々承知です。「あ~か」「さ~た」など、いくつかに区切られた中から勉強したい行を開いたら問答無用で右上の「テスト」ボタンをタップ。覚えてない見たことない字があるとか知ったことではありません。間違えても死ぬわけではないのでそれらしいひらがなを入力しながら解答し、間違えた問題は字母を確認。終わったところでもう一回。一周するのに19問で5分もかからないので回せるだけ回します。
 始めたときは19問中5~6問くらいの正答率だったのが、30分かそこらで18問正解できるようになります。にらめっこよりもぶっつけテストの方が覚えられる。

 これでも練習に使うのはぶつ切りにされた文字であり、実際の文章はこれを続けて書いた一文字一文字の輪郭があいまいなものなので読んでいくにはコツがいりそうですがアプリにはこの「つづけた文章を読む」セクションも収録されているので安心です。

 

 これで刀剣展覧会のアレとか、三十六歌仙の絵のソレとか、春画展のあははんな絵の後ろに書かれてるうふふんなアレを読めるようになれたらいいな。なろう。練習します。