かくりよ書房夜明け分館

服飾、文芸ほか雑記

着ていくあてはないが蛇柄の服を買う

 美容師さんに髪を切ってもらいながら

「2020年全然服買わなかったんですよね」

という話になった。

「分かります……新しい服、買っても誰に会いに行くわけでもないし……」

「今更気づいたんですけど人に会うために服買うみたいなの、あったんですね」

「ね! そういう機会がなくなって気づきましたけど……」

 

 親しい友人と会うことでMPを回復している節もあり、服屋でひとり、もしくはふたり以上でわーわー言いながら試着して買ったり買わなかったりすることでMPを回復している節もあり、その両方の手段が一気に断たれて気づけば2021冬。めちゃくちゃ気がふさいでいる状態で私はインターネットを徘徊していた。かれこれ3年ほど前になってしまったZARA事変後に買った冬服がすごい勢いでへたりはじめていたからである。毛玉が浮いたり伸びたりし始めた、かつては輝いていたニットを調達した服屋が集まっている界隈は新型ウイルスのお陰で大変近寄りづらくなっている。まだ安全そうな近場の服屋に人が少なくなったタイミングを狙ってひっそり試着を繰り返したりもしたが、絶望的に自分に似合う冬服が見つからない。別に着られないことはないが首を通すたびに釈然としない気持ちになるだろうことがわかって、そっとハンガーを売り場に戻していた。買い物は試着が命だと思っていたけれどいや、なんかもう、いろいろ無理じゃないか? と諦めに似た気持ちで通販サイトを開いた。

 ZARAの。

 結論から言うとそこが天国だった。

 着られるか着られないかは微妙だが袖を通したい服がおびただしい数ある空間がそこだった。現状の自分が求めているのはベーシックなデザインとかではなく着てアガるかどうかだということを改めて強く認識させられた。気づいたら仕事着として使えそうなおとなしいデザインのニットとは別に、どこに着ていけるのか全く不明な蛇柄のブラウスと、肩の盛りがやたらと激しいサイバーパンクなデザインのジャケットをカートに放り込んで決済していた。蛇柄を選んだのは、事変で服を選んでくれた友人が

「いや君パイソンとかのアニマル柄もいけるんじゃないか?」

とぼそっとどこかでつぶやいたのを覚えていたからである。届いた蛇柄のブラウスはそれまで一度も着たことないジャンルなのが信じられないくらい自分に馴染んだ。仮説は正しかったよ友人。しかし結果的に必要だったはずの冬服ほぼ買ってないことに今気づいた。バカなのかもしれません。まあまたのんびり探そう……通販で……意外とイケることがわかった通販で……。

 どこにも行けなくても意味の分からない服を買って着て生きていきたいなと思いました。2021年。生存しています。