かくりよ書房夜明け分館

服飾、文芸ほか雑記

料理嫌いが自分のごはん程度は楽しく作れるようになった話

 

 ブログをめちゃめちゃたくさんの方に読んでいただいていてありがとうございます……諸々噛みしめています。いろいろのきっかけになった友人には「今度お礼に岩盤浴に連行します」という話をしました。たのしみだ、人生初岩盤浴。汗がどばどば出るんでしょう。整ってしまうんでしょう。ひとりで突入する勇気がなかったので死なばもろとも、友人にはいっしょに蒸されてもらいます。

 アクセスが爆増したときのお作法についてまったく存じ上げないので、更新は通常運転です。ただでさえ忙しい年の瀬なんだからここはゆっくりやりたい気持ちです。

 

 料理がめちゃめちゃ苦手でした。
 自分で料理らしいことをしても「食べられる」だけで別に美味しくならない、自己流のいろいろはどうやら間違ってるらしいんだけど笑われるだけで別にどうにかしてもらえるわけではない、節約のつもりで野菜や肉を買っても傷ませてしまう、ここまでしてそんなに節約も出来ず美味しいものも作れないなら料理をする意味とは……なんなのだ……?
 学校の調理実習でもほぼほぼ皿洗い担当、大学入学を機に一人暮らしを始めて料理を始めるかと思えばまったくそんなことはなく、下宿の周りに安いお総菜屋さんや定食屋さんが軒を連ねていたこともあり一ミリもレパートリーは増えないまま。親戚が集まる折には手伝いに呼び出されるものの包丁さばきの不器用さに失笑を買い、唯一できたはずの皿洗いすら下手だと笑われ、誰もいない仏間のはじで縮こまって祖母の家の犬を静かに撫でていました。犬はかわいい。ひとを馬鹿にしない。

 皿洗いと掃除はできないなりに好きだったので、まあ家事がまったくできないわけでなし、向いてないことは外注したらええねんとうそぶきながら本屋さんをうろついていた時にみつけたのがこれです。

honz.jp

 「料理を作るのが苦痛」「そもそも何をどうしたらいいか分からない」「家族に笑われてから台所に立てない」「そもそもおいしいって何?」「母親なのに、妻なのに、料理ができない自分はきっとダメ人間なんだ……」など、料理教室に集まった女性たちの悩みに首がもげるくらい頷きながら読み始めました。というか、そういうの私だけじゃなかったのか。なんだ。私は世界に一人だけ存在するめちゃめちゃ料理のできない人間なのかと思ってしまっていたぞ。

 包丁の握り方からスタートし、ドレッシングの作り方、パンの焼き方、魚や肉をぱさぱさにせず火を通す方法、冷蔵庫でしなびていく野菜の救出方法、などなど、順を追って出来るようになっていく女性たちの背中にめちゃめちゃ励まされ、ページをめくるたびに「えっ……それでいいの……」「そういう風になってたの……」と声がもれました。

 これまではどれだけ「簡単!」「初心者向け!」と書かれていても、何かのレシピを見るたび超えられない断崖絶壁を眺めている気持ちになったのですが、この本に書かれてることならできるかも、というか、やりたい。面白そう。

 気が付くと近場のホームセンターに自転車をぶっ飛ばし、柄から刃にかけてつなぎ目のない綺麗な調理ナイフを買っていました。家にあったのは「切れないから安心」という謎すぎる言葉とともに家族に渡された、本当に切れない子ども用の包丁だけだったので。あと、玉ねぎと人参。丸のままの野菜を家に持ち込んだのはかなり久しぶりのことでした。

 本に書かれている通り、「握手する感じで」包丁を握る。刃と柄を繋ぐ部分を親指と人差し指でつまんで、残りの三本で柄をくるむ。刃先をまな板に着けて、残りの部分を下すように、玉ねぎの中に刃先を落としていく。
 以前は一回切る毎に誰かに笑われていたり、その切り方はおかしいと言われている気がして(一人で台所にいるのにね……)落ち着かなかったんだけど、教えてもらったやり方に沿って無心にやっているとそういう声は聞こえませんでした。リズミカルに刃が落ちる音。指も切れてない。大きさもある程度揃ってる。

 これは

 もしかして

 めちゃめちゃ楽しいやつではないか……?

 

 切った野菜はニンニクとハムと一緒に高温で炒め(フライパンに放り込んだ瞬間じゅーっという大きな音が鳴るように、油を温めておくのがポイント、らしい)、ゆでたパスタとあえて塩コショウを振って溶けるチーズをドーン、でチーズペペロンチーノ。

 ふつうに美味しい。食べられる、じゃなくて、美味しい。

 切りまくった野菜はそのまま冷凍庫。明日はスープができる。

 こんなことだったのか、と思うと同時に、こんなことでもできなかったし辛かったんだよなあ……としみじみ玉ねぎを噛む晩でした。またいい本を見つけてしまった。

 こねないパンにも、そのうち挑みたいものです。