かくりよ書房夜明け分館

服飾、文芸ほか雑記

伏線回収と魚の骨

 数年前に試したときは何度やっても失敗したので思い切り背中に力を入れながら髪を編んでいたら、ふつうにできてしまった。
 フィッシュボーン。魚の骨。三つ編みよりやや複雑な編みこみ。
 鏡を見ながらしばらく拍子抜けして、編み上げた頬の横の髪をためつすがめつしながら、本当にこれでよいのか確認する。見る限り、パソコンの画面の中のモデルさんの髪の様子と変わらないように見える。

 

 これまでの人生の復讐をよくしている。

 自分に似合う服を着ること。自分に似合う化粧をすること。たくさん文字を書くこと。たくさん文字を読むこと。読めないと思っていたものを読むこと。いけないと思っていた場所に行くこと。話せないと思っていたひとと話すこと。話せないと思っていたことを話すこと。作れないと思っていたものを作ること。

 

 私はおそらく同年代の人間より精神的な成長が遅いのだと思う。遠くへ行った背中をみていじけながら「私にはきっと一生できない」と思っていたことが、最近ぽつりぽつりとよくかなうようになった。あれが出来ていたときのみんなの背中に、十年ほど遅れてようやく追いついている。

 十年前持たなかった語彙でもってその経験を受け取れるので、悪くはない、と思える。

 

 諦めが異常にいいように見えて、悲しいと悔しいと誰に向けるでもない憎悪を抱えていたかつての私よ。伏線回収はきちんとできているから大丈夫だ。これからも、それは続く。たぶん。